最近の米国の調査報告
★★(2002.7.10新聞各紙に米国における5年間のエストロゲン調査WHI(50才〜79才女性総16000人にプレマリン0.625mg+MPA2.5mgと偽薬群に分けての調査)でホルモン治療者のほうが乳癌発生率が多く、調査参加者の健康を考慮して調査が中止されたことが掲載されました。)
結果
有害なこと
26%乳癌発生が増加する・・・これは今までの予想より低い結果
41%脳卒中が増加する・・・・高齢者にプレマリン0.625は量的にどうか?
22%心血管疾患が増加する
29%心臓発作が増加する
107%静脈血栓症が増加する・・・高齢者にもプレマリン0.625では予想通りか?
有益なこと
34%骨粗しょう症による大腿骨骨折が減少する・・・予想通り
34%椎体骨折が減少する・・・・・・予想通り
37%大腸癌が減少する・・・・これは日本では注目されていない!
17%子宮体癌が減少する
24%全骨折が減少する
★★ 疫学調査の%では上記だが、実際の数値は未使用者1万人で乳癌の発生が30人、脳卒中は21人 に対しホルモン使用者1万人当たり乳癌38人、脳卒中29人と1万人あたり8人の差という程度。
計算上では乳癌の発生は 38/30=1.26 つまり26%増加となるが、実際の増加は1万人で8人の差。
26%増加というと 素人は100人で26人も増加すると考えに陥りやすいので今後は誤解を招かないより正確な報道が望まれる。
全死亡率はホルモン群と偽薬群で差がない
★子宮が無い人に行っているエストロゲン単独(プレマリン0.625mg)の調査では今のところ有害事象(乳癌も増えない)が無く、継続調査中である。・・・・ということはMPAという黄体ホルモンが悪いのかもしれない。
この調査では心血管への予防効果は無いどころかかえって悪く、乳癌の発生も増えるので更年期治療のような短期の治療は問題が無いが、長期のエストロゲン使用は推奨できないこととなりました。
HRTは予防医学として注目されておりましたが、今回の大規模調査で大きくトーンダウン。
★★しかし日本では
更年期障害真っ盛りの50才台の方にはプレマリン0.625mg+MPA2.5で行うこともありますが、60才以降の方にこの高濃度は当院ではまず処方しません。プレマリンの半量、弱いエストリオール剤あるいはホルモン含量が強弱2種類の貼付剤を年齢・体重あるいは使用目的に応じて使い分けております。また多くの病医院でもそうだと思います。
最高齢79才の方に上記量を使用している米国の大規模調査をそのまま日本に当てはめることはできません。
(この調査の平均年齢は63.3才。60才以降の比率が68%、その中でも70才以降の方が22%と日本で考えているよりずっと高齢者に投与されている。)
また、調査参加者のBMI 体脂肪量30以上が34% とかなりの肥満者を対象としているし、米国にしては喫煙者の率が多い(現喫煙率10%、既喫煙率40%)
また、プレマリンという経口剤と貼付剤(エストラダーム、エストラーナ、フェミエストは2種類ある)があり、その投与経路の違いで血栓症あるいは脳卒中、心疾患に与える影響も大きく違うことも分かっております。
それから黄体ホルモンの使用有無あるいは種類差でもその効果は大きく異なることも分かっております。
現在、関連学会で日本人の適正ホルモン使用量の検討が進められております。
しかし、この調査の結果は厳粛に受け止めなければなりません。
今まで当院では適応や使用期間・使用量あるいは厳密な乳房検査を考慮してこの治療を行ってきましたが、今回の調査後尚一層適応・期間・年齢などを考慮しながらこの治療法を選択して行きます。
WHI レポート