しかし・・・・
2002年米国WHIの報告でHRT使用者は未使用に比し1.26倍乳癌に罹患し易いことが大規模調査を行うことによりはじめて立証されました。また2003年には英国「100万人研究」では2倍HRT群の乳癌が多いことが判明しました。当院でもHRT中に発症した乳癌は6名おります。(幸い当院の6例は早期発見で皆さん健在です)
また、HRT施行者の乳癌による死亡率は未使用者の死亡率より低いという論文が7編ありますが、高くなるという論文は無かったのですが、「100万人研究」ではこれにも否定的でわずかに増加。
いずれにせよ「乳癌の疑われる方にはホルモンを投与しない」が原則です。しかし、5mm以内の初期乳癌の発見は非常に難しいことと、乳癌は最も頻度の多い癌であることを念頭に入れておかねばなりません。
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下図はエストロゲン単独療法使用前と2年後のマンモグラフィです。エストロゲン単独(この方はル・エストロジェル)でも乳腺が濃くなりマンモグラフィが読みにくくなる典型例です。
乳腺後隙の見え方が全く違います。この乳腺後隙に多くの乳がんが発見されます。このように乳腺読影医が苦労するケースも時々あります。
H15年8月朝日新聞に乳癌検診が専門医以外で行われ、診断が遅れた方の記事が連載されました。マスコミを通して世論が動き、国会でも取り上げられ、ようやく今後の乳癌検診にマンモグラフィを併用する指針が厚労省から出されたことは皆さんもご存知ですね。
子宮癌検査は顕微鏡レベルで行っているのに、乳癌は手で触れて調べるのではいかにも原始的であり、また乳癌による死亡者数は子宮頚部・体部両癌死亡者数の1.7倍もあり、指針の発表は遅きに失した感があります。しかし、こういうことでもなければ古い制度に安住していたのかと想像すると非常に残念でありますが今後は良い方向へと向かうこと予想されます。抵抗勢力に立ち向かった関係諸先生方は大変ご苦労なされたことと存じます。
金森和男氏他:ビーナス達への警鐘,学生援護会,東京.1992より
上図は乳癌の自然発育史です。
乳癌が発生して10年経過して1cmになります。それまでの発育は緩慢ですが、その後は急速に増大し癌が発生して約13年で人は死亡します。
ところがしこりが1cmを超えるつまり癌発生後10年を超えないと人の指では触れることは出来ません(大きな硬い乳腺だと2cmになっても触れないことが時にあります)。1cm以上になると乳腺以外への転移も少しずつ多くなります。だから早期発見しなければ乳癌死は避けられません。
多くの集団おいて触診での検診を毎年受けていた群と検診を受けなかった群での調査で死亡率に差が出なかったことが分かってきました。つまり触診だけの検診は無効と判定されたのです。
ホルモン治療をしない方でこうなんです。とりわけホルモン治療(HRT)を行う人ですでに乳癌があれば、癌を増殖進展する可能性がかなり高いのです。それ故、より一層きちんとした検診を受けていただきたく、くどい説明をしています。触診でもいつかは癌を発見できますが、手遅れの方も出てしまいます。
上図からも分かるようにたとえマンモグラフィでも癌発生後5,6年後を経なければ癌は見つかりません。発癌後間もなくはマンモグラフィでもMRIでも発見できません。それ故に定期検査が必要なのです。定期検査で早期発見すれば再発の可能性が非常に低く、また手術は縮小手術で済むことが多いのです。
欧米ではホルモン治療者の全例が、また一般女性の70%がマンモグラフィを受けています。・・・・・ところが日本は2%です。
さすがのマンモグラフィも欠点がありますが、それは超音波エコーとの併用でほとんど防ぐことができます。
一般的には乳癌検診は乳腺外科で受けられることが一番確実です。小生が乳癌検診に入り込んだ理由(骨粗鬆症の治療にエストロゲン(女性ホルモン)を使用するには乳房検診が必須であるためでした)。
当院でも当初は乳癌検査は乳腺外科に紹介していましたが、小回りが求められる開業医には定期乳房検診の度に乳腺外科に送るのでは患者さんが大変で、なんとか自施設で行えないかと模索してきました。
乳癌の手術は乳腺外科で行いますが、検診だけで手術をしないのであれば婦人科の小生でも行えるのではないかと10年前からこの領域に飛び込みました(快く受け入れてくれた旭川医大第一外科と池上淳先生には深く感謝しております)。
たとえば、胃がんの手術を行わない内科医が胃がん検査は行っているでしょう。これと同じです。
現在婦人科医の中にもきちんとした乳癌検診を行おうとする医師向け研修会が数多く開かれており、心得のある婦人科医も少しずつ育ちつつあります(マンモグラフィが普及してくれば、医師数の少ない乳腺外科医だけで乳癌検査を行うことは不可能です)。そういう人々のリストがインターネットにちゃんと公開されておりますのでご覧になり、上手に利用されてはいかがでしょうか(今後、乳癌検診に意欲のある人とそうではない人に2極化して行きます)。
読影医リストを見てみると、やはり圧倒的に外科医が多いです(乳腺の担当はほとんどの大学で外科ですから当然です)。
院長はマンモグラフィB1認定医でしたが、06.12月 A認定医へとランクアップ試験に合格して診療に当たっております。超音波検査ではJABTS(日本乳腺甲状腺超音波診断会議)のA認定を取得しています。
マンモグラフィと乳房エコー どちらが良いの?
マンモグラフィは高濃度乳腺の方(一般的には若い方に多い)ではレントゲンがはじかれ、よい写真が撮れないことがあります。それがマンモグラフィ最大の欠点です。エコー検査はそういう方でも診断できることが多くあります。
ではエコー検査の方がすぐれているのでしょうか?
例えば、巨大な乳房の方や垂れ下がった乳房をエコーと触診だけでは診断するには危険すぎます。
また、マンモグラフィだけしか現れない乳癌の微細石灰化像というものがあります。またエコー検査にはマンモグラフィのような認定基準が今のところ全くありません。したがって今は各医療機関が勝手に行っています。(とういうことは各医療施設間格差がとても大きいということで、現在乳房・甲状腺超音波会議JABTSという組織が乳房エコーの認定基準作成中です)その他 エコーでは保存性の問題点(過去の画像や他施設との比較ができない)があります。
どちらにも特徴があります。現時点ではマンモグラフィと触診は必須検査であり、高濃度・不均一高濃度乳腺例にはエコー検査を併用するというのが現在の常識です。
モニター診断
H21年度から当院でもマンモグラフィなどXP機器はモニター診断(PACS)システムを採用しました。
フィルム時代には不可能だった高濃度乳腺の読影にもデジタル技術は威力を発揮しております。
当院の穿刺細胞診
乳腺腫瘍の良・悪性の判定が画像上(マンモグラフィ・超音波検査)だけではどうしても難しい症例には穿刺細胞診を行っています。
穿刺細胞診(FNAC 超音波ガイド下穿刺細胞診)
超音波下に黒く見える乳腺腫瘍(上図では直径約5mmの腫瘍)に穿刺注射針が入っているところ。
ここで陰圧をかけ吸引した細胞を細胞診検査に出し、ほぼ診断がつきます。
その結果が悪性あるいは悪性疑いならば、細胞診の結果を添えて外科病院へ紹介となります。
上の再生ボタンをクリックすると穿刺時の動画が写ります。