当院院長 和田博司から
HRTは日本では登場してまだ間もないですが、以前から更年期治療として使っていたものに非常に似ているものなのです。これからの高齢化社会で老人の介護は避けては通れません。財政的にも労働力的でも一人の老人にかかる費用は寝たきりやぼけている人の場合と、そうでない場合は比較にならないほど高額です。このままで行けば国の財政は破綻することは小学生でも分かります。他人になるべく迷惑をかけない自立した人生を歩まねば、いつまでも国も甘やかしてはくれないひっぱくした時代にすでに入ろうとしています。
HRTは強力な助っ人になってくれると信じております。近い将来、HRTをすることが当たり前の社会が訪れることは分かっておりますが、間違った知識や憶測のためにこのすばらしい治療法の進行が遅れないように切に願っています。
もちろん、わたしの家族、母、叔母3人、祖母1人(90才)にも使用しており、特に90才の祖母は痴呆ではないのですが、骨粗鬆症と老衰がひどく寝たきりでやる気もなく、トイレもたいへんだったのですが、服薬(エストリオール)してから2年目くらいから、車椅子につかまり歩きでトイレもすいすい行くようになっています。
私たち男性にもHRTと同じように画期的な方法が見つかると良いのですが。ただ、確かなことは男性の方が早死にするということです。
上のグラフは京都府立医大本庄先生の本のコピーです。
中高年医療の本質は疾患、障害の予防にあります。つまりなってしまってからでは遅いのです。米国は前向き調査(★くじ引き試験)の進んだ国で、(たとえば、ある癌治療薬の効果判定のために癌患者に、抗ガン剤を使う群と使わない群にわけ、先10年間効果判定をする。★日本ではこの2つの群にわけるところから難航しますが。)何事にもそうですが、くすりの効果判定にはっきり白黒つける国です、またそうしないと正しい調査といえないのです。日本は白黒はっきりつけたがらないお国柄なのか、さっぱり効果のない薬が認可されていたり、逆に世界中で認められている効果のすぐれた薬が認可されていないなどの問題が多くあります。かたや欧米はコストパフォーマンスがつよく物事の判定基準に組み込まれていて、たとえば、骨粗鬆症になって、骨折をしたり、寝たきりになった場合にかかる費用とHRTを行いそれを予防した場合にかかる費用について十分に調査されており、その結果HRTをしたほうがずっとコストパフォーマンスにすぐれているというだけでなく、その結果得られるQOL(生活の質)には歴然とした差があるという結論がでています。しかし、わが国の医療保険制度は一部の例外を除いて、予防を目的とした医療を認めていません。つまり、病気になるまでずっと放ておいて、なってから保険でみる。つまり、治療医療のみが行われており、その効率の悪さは誰の目からも明らかです。急速な勢いで高齢化社会に向かっており、ひとりひとりが真剣に老後の生活設計を考える時代になってきたようです。世の中、行政改革、規制緩和が叫ばれて久しいですが、規制の必要ないものに規制があり、規制の必要なものに規制がない。これは医療だけでなくどの分野においても同様だと思います。この国の制度そのものが老朽化していることだけは間違いありません。
★骨粗しょう症のページでは整形外科の先生と意見が食い違うところがあると存じております。ただ、ある整形外科医は骨折治療には一生懸命ですが、骨粗しょう症の予防や薬物治療には興味が無い方も多く、どうもインセンテイブがわかないのかもしれません。そういうこともあって現に欧米ではその分野は婦人科、内科が担当しているようです。しかし、骨折治療においてもやはり土台となる骨が悪くては手術成功率も低く、HRTやビスホスホネートを積極的に取り入れて方もかなりいることは心強く感じております。
★発ガンのページでは、我が国の乳房検診の遅れを指摘しました。HRTが推進していくには一般医(婦人科を含めて)がマンモグラフィーが出来なくては米国のようにはなりません。さらに一層の基盤整備が必要です。
★低用量ピル、子宮内膜症のページではピル解禁が遅れた原因として初期の頃は解禁に反対する婦人科医団体の存在が指摘されています。いつの世も既得権を守る力は強いです。(今回の解禁では違うようで、解禁に賛成しているようですが)
また、子宮内膜症治療では、世界的にこれだという治療のスタンダードがなく、混沌としています。婦人科薬は一般に低額でメーカー、医療機関の利益に貢献しないものが多いのですが、婦人科では希である高額なGnRHを使用したくなるインセンテイブがどうしても働きやすい状況にあります。ただ、患者さんにはその再発率の高さを十分説明しないといけなくなるでしょう。
★国民皆保険という制度はすばらしいのですが、そのせいで学問が進まなかったり、無駄な医療のような非効率が次第に目立ち始めました。これも制度疲労でしょうか?
用語集
★日本では難航する。 ●●●[つまり、’わたしは癌なのに偽薬かも知れないとは何事よ’というように残念ながらわが国には、未来の科学の進歩や、子孫のために献体するという考えの方がまだまだ少ない。]
★くじ引き試験。●●●<後から調べあげる後ろ向き調査では薬を出す人の判断が加わるし(たとえば、この人は重病だから、強い薬は避けようというような)、調査する人に都合がよいように変える可能性があるので、調査としては認められていません。その点くじ引き調査は最初から人の思惑が入らず、正しい調査と言えます。米国は前向き調査を得意としている国で、わが国の調査は残念ながら後ろ向き調査が多いのです。>
★更年期。 女性の生涯で月経が停止する時期。閉経期
★子宮内膜。 子宮の内側の粘膜
★卵巣。 女性の下腹部にある1対の器官で、卵子を放出し、女性ホルモン(エストロゲンと黄体ホルモン)を産生する。
★ホルモン補充療法HRT。 更年期や手術により体内で産生できなくなった女性ホルモンを外から補い、その症状を改善する方法。
★エストロゲン(卵胞ホルモン)。 女性の卵巣でつくられるホルモンで、主に月経周期の前半に子宮内膜を増殖させる働きを持つ。
★黄体ホルモン。 女性の卵巣でつくられる女性ホルモンの1種で、月経周期の後半に、受精卵の子宮内発育のために子宮内膜を準備する働きをする。
★骨粗鬆症。 骨に含まれているカルシウムが失われて骨がもろく、弱くなってしまう状態。高齢婦人に多い骨折の原因。
★高脂血症。 血管の中にコレステロールや中性脂肪が多い状態。