耳鍼集中講義

はじめに

いつもしている東洋医学治療の本質は、気の治療です。

肝だ腎だと言っても、その中に流れている気を診ている。脈も気、腹診もお腹の気をとらえている。鍼もその人の中の気の流れを調節している。

漢方薬も太陽エネルギーから形成された植物の気や鉱物の気を食べ物の気として体内に入れることによって、本人の中に流れている気を調節し本人の治る力を引き出している。

鍼の治療効果には術者の気が重要である。多くの鍼灸師は、術者の気が足りないので通電や温熱を加えている。術者の気を高めるには、Touchingが有効である。つまり、患者さんの体に触り続けることです。

病気とは気を病むことだが、患者さんの体に悪い気があるのではない。

気に悪い気も良い気もない。

臓はすべて、最初、実である。だから、臓に障害が起きれば、これ以上実しないので、必ずこれは虚していく。病み出すと臓は減っていくわけです。しかし、臓の少なくとも60%以上がやられないと虚の症状は出てきません。

病み始めは臓が減っていくけど、気は臓から溢れ出す=これが、いわゆる実の状態です。現実には、大部分の患者さんは気実の状態で病院にきます。気実だけど、実際は臓は減っていっている。

西洋医学的には、橋本病で考えると理解しやすい。この病気の初期には、甲状腺機能低下がおきているのに、甲状腺ホルモンがじゃんじゃん出ている。機能亢進症と間違って抗甲状腺ホルモンを投与すると、甲状腺機能がど~んと落ちる。

すべての五臓の変化は、なにか起こったときまず、溢れる気が臓から出てくる=これが実証。でも、臓の60%以上がやられると、もう気を溢れさすことも出来なくなる。はじめて、臓の不足がでてくる。臓の実証はどこに出てくるかというと、ほとんど腑の位置に出てくる。だから、実とは大抵の場合、腑実である。肺を病むと、初期には大腸に実の症状がでてくる。呼吸器系の患者さんがよく便秘するのはそのためです。

現実に、患者さんが医療機関に来るときは、実の場合が多い。実の方が強い症状を出しているし、治療もしやすい。なんとなくだるいとか、とりとめのない症状は虚になっている。だから、術者が心を込めてtouchingすると、気をもらう場合が多い。もちろん、患者が虚のときは気をあげないといけないけど、total すると気をもらっている。気は物質であり、個人個人でその違いはない。

耳鍼して圧丸(揉ませる)することは、患者の気の流れに働きかけているのだが、そのことで術者も気をもらっている。揉むことで気の交流がおき、揉む人の体の調子が良くなることがある。耳鍼する事で術者の能力が高まる。

・ 耳の解剖

1 耳輪  

2 対耳輪

3 対耳輪下脚

4 対耳輪上脚

5 三角窩

6 耳舟

7 耳屏

8 対耳屏

9 耳垂

10 耳甲艇

11 耳甲腔

12 外耳道開口

よく使用する耳穴と効能

1 耳輪 

肝陽:耳輪の膨らんでいる所。肝陽上亢の高血圧を下げる。(注1)

耳尖:耳を折り畳んだ突端で耳尖放血により、高血圧、メニエール病、のぼせ、鼻出血など急迫の実を瀉す。この裏が脳頂。

2 対耳輪 躯幹に相当する

頸椎:下1/5

胸椎:下2/5から中3/5

腰椎:上2/5(そのうち上1/5は仙尾椎)

頚前面:頸椎穴内側

胸部:胸椎穴内側

腹部:腰椎穴内側

肩背:頸椎穴外側

肋骨:胸椎穴外側

腰筋肉:腰椎穴外側

3 対耳輪下脚 臀部に相当する

臀部:外1/3

坐骨神経:中1/3

交感:内1/3 交感神経の調節

4 対耳輪上脚 下肢に相当する 

足趾:上1/6後方

足甲:上1/6前方

踝:上2/6

膝:中1/3

個:下1/3

5 三角窩 内生殖器に相当する

神門:後下方1/3上部 脳の入り口を開く、枕とこみで取穴(注2)

盆腔:後下方1/3下部 骨盤腔充血

角窩中:中1/3 

内生殖器:前上方1/3 内生殖器(子宮、卵巣)、月経困難症

6 耳舟 上肢に相当する

6等分して、上から

肩関節

鎖骨

7 耳屏 咽頭、内鼻に相当する

腎上腺:耳屏下部隆起の尖端  副腎に相当、炎症性浮腫を改善する

飢点:diet point

8 対耳屏

縁中:下垂体から視床、卵巣

枕:脳の入り口を開く、神門とこみで取穴

9 耳垂 顔面に相当する、縦横に9等分する

上内側から

1区 牙(歯)

2区 舌(舌炎、口内炎)

3区 頤(頤と枕で鬱に効く)

4区 垂前:神経衰弱点、抜糸麻酔点

5区 眼

6区 内耳(耳鼻科由来のほとんどの疾患。耳鳴、突発性難聴、メニエール病は2週以内なら完治。取穴は内耳、外耳、交感、肝。耳鳴の90%は肝。)

など

356区境界 面頬(顔面のあらゆるもの)

10 耳甲艇 腹腔に相当

11 耳甲腔 胸腔に相当

(注1釈)肝陽は肝の一部だけど相対的なもので、肝陽上亢とは肝陽だけが上がっている。肝陽上亢からの高血圧では、肝陰虚から、腎陰不足から心火が上がり肝心火旺から、脾虚→肺虚から肝陽上亢になる。

(注2釈)皮内鍼をすると、脳は開かれているから、神門・枕は取らない

・ 五臓六腑

耳鍼は東洋医学的五臓六腑も西洋医学的五臓六腑も治療できる。

脾:=膵のこと。 消化器系から栄養をもらい、腎から水をもらいそれを全身にばらまいている。しかし、消化器系の一切の痛みに対し効くのは、肝気を整えるだけの芍薬甘草湯である(肝が脾を克す)。

胆道まで含む消化器全体、副交感神経、肌肉(筋肉)、・すると口の粘膜があれる、口角炎ができる。脾虚では胆道の黄色になる。

脾は水穀の気を五臓六腑にわたらす(飲食物を消化し栄養物質や水分を血中やリンパ管中に吸収して、門脈やリンパ系を通じて全身に輸送する)。

上に行かなくなると、下ばかりにいくようになり膝関節水腫になる。

肺:いわゆる心肺機能。大部分の皮膚疾患は肺が絡む。呼吸、皮毛 呼吸器疾患。心不全に効く木防已湯や炙甘草湯はほとんど肺に作用する薬。肺がやられると鼻血や鼻が乾く。

肺の宣散(脾からきた栄養と大気から吸収した気を、気血津液として全身のすみずみまでわたらす機能)はいわゆる心機能そのものである。

粛降(津液を下方に輸送し腎におろす)が障害される場合、腎が受けれない時は肺水腫となり、肺が下げれない時は喘息あるいは五十肩になる。宣散と粛降のどちらかやられると肺の病症をおこす。

心:冠状動脈、及びこの血流とあいかかわる脳血流心は舌に開く。

肝:肝胆、門脈系。交感神経(肝陽上亢とは交感神経過緊張状態のこと)、筋腱。(筋肉そのものは脾)肝の上衝は眼に現れやすい。目が真っ赤になるのは肝陽上亢そのもの。

腎:骨。下垂体、副腎(一切の内分泌系は腎の支配のようだ、糖尿病も最初は脾だけどその後腎になる)。腎、泌尿器、、老化のすべて。腰椎圧迫骨折はporosisと骨から間違いなく腎です。

痛みには肝由来、腎由来があるが、肝の痛みに腎を取穴しても効かない。

産婦人科領域でも、卵巣由来は肝で生理周期由来は腎である。

五臓診断に自信がないとき、耳を探ることで五臓診断できる。先の鈍の棒で探るとそこだという圧痛があり、そこに先が入る。

体鍼は、2臓3臓の時、どちらが主か判定する必要があるが、耳鍼は、しなくとも良い。たとえば、皮膚疾患なら主か従か別にして、必ず肺が絡む。

耳鍼では、その人の病症がどこか分かったら必ず五臓のどこかをとる。初心者は一臓で治療を始めた方が技量が上がる。私の場合は、ほとんど3つの組み合わせでとっている。すなわち、脾虚肺虚肝陽上亢、肝腎両虚脾の仮性実証、心脾両虚腎の仮性実証。

但し、体鍼で五臓六腑をとっている時は耳鍼でとらない。

臓を瀉すのは怖いから、対応する腑を瀉す。

不眠症は、心そのものに原因があるのは稀で、脾がどんどん肺におくるため肺が落ち着かず心のふとんになれずに不眠になる場合がほとんど。大腸と胃にとる。

・  特異点

内分泌:視床下部、内分泌のコンダクター  ★内分泌の本質的な支配は腎

腎上腺:副腎

内分泌+腎上腺の組み合わせは多い、内因性のステロイド分泌をよくするようだ。

暈点:めまい

縁中:脳卒中に関係するいっさいの病気

枕:脳神経の絡む病気

神門+枕でとる

神門:脳への回路を開く

風渓:アレルギー疾患

肝陽:肝陽上亢のみを治療

盆腔:骨盤内の炎症

角窩中:気管支炎

内生殖器:子宮卵巣、月経困難症

降圧点(表)+降圧点(裏)+肝陽で反応性の高血圧性なら20ぐらい下がる。但し、腎性、腎血管性、ホルモン性の高血圧性には効かない

交感:大抵、肝と併せてとる。体幹部の痛みに効く

口:顔面痙攣

耳尖:放血する。急迫実の症状を瀉す(のぼせ、鼻血)

脳頂(耳尖の裏):大脳皮質、脳卒中

耳迷根:月経困難症

渇点

飢点:飢えていても飢えを感じさせない。食事量が減る、但し、体鍼、臓腑治療が必要

耳鍼の欠点は、小さなベクトルで動かすために痛みを用いるため、痛い。

本治のツボは、肘・膝から末梢にあり、互いの距離が離れているためベクトルが大きく効果が大。一方、耳鍼はベクトルが小さいために体鍼に比べて効果が落ちる。

1)診断能力を養うためには、一臓診断を心がける。一臓診断が当たっていないと効かない。2)圧穴(あつがん)法で揉むことで気の交流をはかる3)酒精綿で拭くとマッサージすることになり、ツボが浮きあがってくる。4)弱い刺激は補、強い刺激は瀉になる。5)効果の強さは、王不留行+家人の揉み>カブ+家人の揉み>円皮針>王不留行+本人の揉み>カブ+本人の揉みの順である。王不留行は効きめが強すぎるので、臓かリウマチの疼痛関節に使用して、他はカブの種を使っている。

Ⅳ 頻用する病症の取穴

悪心・嘔吐:胃、縁中、交感、内分泌、神門、枕、肝or脾  ★腹痛は肝

胃痙攣:胃、交感、神門、枕、耳中、肝、脾 ★ブスコパン、ソセゴンより有効

腹瀉(下痢):大腸、小腸、交感、内分泌、脾+胃、肺、心+小腸

便秘:大腸、角窩中、皮質下、直腸、交感、脾、肺

喘息:交感、肺、気管、内分泌、対屏尖、腎上腺、腎、脾、大腸  ★劇的に効く、子供の喘息発作は肺が90%、肝(神経質)が10%、成人では肺と肝の争いが(肺実肝虚、肺虚肝実にしろ)90%、腎咳が10%

めまい・頭痛:神門、枕、額、皮質下、肝(大部分)、腎、耳尖放血

不眠:神門、枕、腎、心(多眠)、胃、肝(心配)、脾(なんかしらないけど)、肺(悲しい)

三叉神経痛:神門、枕、脾、肝、頌、眼 ★三叉神経痛は陽明胃経

顔面神経痛:神門、枕、肝、眼、口、額、面頬区、皮質下、腎上腺

肋間神経痛:神門、枕、肝、交感、胸

坐骨神経痛:神門、枕、肝、腎、坐骨神経 ★肝はストレス絡み、腎は老化 ★神経痛と腹痛は肝であり、神門、枕、肝、交感が基本

腰痛:神門、枕、肝、交感、腰、(腎)

膝関節痛:神門、枕、内分泌、腎上腺、膝+膝関節、肝、脾、腎 ★O.A.は脾で肝も絡む

顔面痙攣:神門、枕、肝、脾、眼、口、額、面頬区、皮質下、耳尖放血

神経衰弱:神門、枕、腎、胃、肝、脾、心、皮質下、垂前

肩こり:神門、枕、頸椎、頚、肩、鎖骨、★加味帰脾湯、加味逍遥散適応の人は神経衰弱点を加える

落枕:神門、枕、頸椎、頚、鎖骨、肝

肩関節周囲炎:神門、枕、肩、肩関節、鎖骨、腎上腺、内分泌、肺、(肝)

月経痛:内生殖器、内分泌、交感、腎、耳迷根、卵巣

耳鳴・聴力減退:肝、枕、内耳、外耳、交感、腎上腺

鼻出血:内鼻、腎上腺、額、肺、脾 ★脾の統血できず肺の穴から漏れる


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