第8回漢方ベッドサイド講義
慢性関節リウマチの2症例
症例1(72歳 男性 慢性関節リウマチ)
平成6年より、肩関節周囲炎、変形性膝関節症、腰部脊柱管狭窄症の診断で、
ときどき受診、関節内注射や硬膜外ブロック治療を受けていた。
平成10年11月 右肩関節痛
平成11年1月 風邪をひく(多関節痛あり)、39度まで発熱
同年2月~4月 両肩関節痛、右膝関節痛
4月 右膝関節水腫 RA(2+) CRP2.54 RAの診断
焦苡仁湯 7.5g
抑肝散加陳皮半夏 7.5g
附子 2g
コージン 3g
サフラン 0.3g
上記処方するも CRP 9.3 RAHA×2560と検査結果悪化し、症状もまったく改善なし。
結局、プレドニン 5g、ボルタレン坐薬使用し、漢方は以下に変方
焦苡仁湯 7.5g
葛根加朮附湯 7.5g
附子 2g
コージン 3g
サフラン 0.3g
さらに、肩と膝に関節内注射を併用している
(下田先生)
今、一番つらいのはどの症状ですか?
(患者)
坐薬で膝と肩は楽になりましたが、薬が切れると両下腿が重くてつらいです。
(下田先生)
朝と夕方とどちらが調子よいですか?
(患者)
夕方です。
(下田先生)
鍼治療はしてますか?
(主治医)
はい。主経を厥陰、帯脈でとっています。
(下田先生)
これまで、脈のとりかたを指導しましたっけ?
(一同)
していません。
(下田先生)
4段階の深さで診ます。1段目、一番浅いところでは傷寒、浮か沈か診ます。2段目では腑の脈、3段目では臓の脈、5臓の相関を診ます。 4段目では季節の脈を診ます。一番深い脈で残るのは、その人の生きてる中心の脈です。
この患者さんは、中心は肝ではなく脾です。最後に残る季節の脈は脾の脈です。脾虚肺虚肝陽上亢です。
(舌を診ながら)だから、意外と肝に強い苔がでていない。
頭が帽子を被ったように重いですか?
(患者)
そう。昭和40年のむち打ち症の時みたいな感じです。
(下田先生)
足の冷えは? 上半身の汗は?
(患者)
ないです。
(主治医)
左下腿が非常に浮腫んでいます。
(下田先生)
これは、本来膝にくるべき水が、ステロイド関注のために下腿にきているわけで、本来の脾の症状です。
(手指、足趾を触診しながら)四逆でも上熱下寒でもない。四逆とは、手足が冷えていて汗をかいている。
上熱下寒は手が熱くて足が冷えているが汗はかいていない。この人は、手は熱く汗をかいて、足は冷たく汗はない。
夜は眠れますか?
(患者)
午後9時に寝て夜中1時に目が醒める。水を飲んで2時間ぐらい寝て、朝の3時か4時に目が醒める。後は起きている。
(下田先生)腹診では、左の天枢に圧痛があり、間違いなく肝と脾が争っている。左の天枢の痛みは曲池の押圧で消えるでしょ。
でも、脾の病証でありながら胃の冷えがない。胃の冷えがあれば人参湯や茯苓飲の適応だけど。
基本処方は、もうすでに本人の訴えのなかにあるけど、加味帰脾湯です。depression的なものが症状を悪化させている。
加味帰脾湯に焦苡仁湯、附子をしっかり増量する。犬血ないのでサフランは不要。
体鍼しないで、耳鍼だけで取ると
耳鍼:神門、枕、脾、肝、肺、内分泌、腎上腺、肩、膝、足
になる。
この方は、RAHA×2560になっていることからも、抑肝散加陳皮半夏の柴胡でR.A. との戦いが始まっている。鍼治療を週1回ぐらい小刻み にやってあげることが必要。うまく、戦いを導いてあげれば、ある時ストーンとつきものが落ちるように楽になるだろう。
症例2(50歳 女性)
● 診断
1 喘息
2 慢性関節リウマチ
3 二次性糖尿病
20年前より 喘息、ほとんど毎日発作あり、ステロイド内服
平成9年から 両肩関節周囲炎の診断で通院中。
平成9年7月に右肩、平成10年3月に右肩、同年6月に左肩。
平成10年11月に手関節及び手指関節の腫張、RA(1+),CRP1.01 、その後、左胸鎖関節痛も加わる。上記2を疑う。
平成11年7月、旭川市立病院から診療情報あり、上記1.2.3。
8月 RAHA×320 CRP4.8.
現在、ロキソニン、リマチル、テルネリン、ムコスタ。プレドニンは5mgを隔日内服。
内科では、糖尿病の悪化があるので今後2週間以内にプレドニンを中止する予定です。
(下田先生)
今一番つらいのは?
(患者)
右の肩関節痛と右の手・手指、左足関節の腫れ、朝パンパンになっている。頸のはりと重苦しさ。
(下田先生)
食欲はどうですか?
(患者)
普通ですね
(下田先生)
(脈診して)太陰の人かと思ったけど、主脈は肝ですね。ただ、肝実脾虚肺虚にならないで、
脾が肝に勝っていて肝がむしろ弱っている。肺実があるので、肝が抑えられて脾を克せずに脾があがっている。
(主治医)
喘息は肺実ですか?
(下田先生)
普通、喘息は肺実です。肺気が溢れるのが肺実で、喘息発作の時は、
すごく痰がでるのではなく息苦しくて息が吐けないという状況でしょう。この方の場合も空咳です。痰はない。
一方、肺虚では肺の水を下に降ろせなくなり、たとえば肺水腫の状態になる。
鍼治療は、正経には皮内鍼を使い、奇経は流れがないので円皮鍼を使う。主経脈は絡穴を取り、従経脈は補母穴や瀉子穴をとる。
この方は厥陰→衝脈→曲沢に流れ、衝脈を介して肺に行ったり肝に行ったりしている。
取穴:右 気舎、内関、曲池、蠡溝、天容
左 三陰交、外関、尺沢、光明、翳風
腹診では胃の冷えがある。
症例1もこの症例も、R.A.との戦いに入っている。我慢できる程度に症状を抑えながら、R.A. との戦いをおさえないこと。
ステロイドを使うと、戦いを完全におさえてしまう。この方も、舌にわずかな苔があるので、
強くない柴胡剤を使い続けた方が良い。強い柴胡剤を使えば、戦いが激しくて体がまいってしまう。
処方は、葛根加朮附湯だけじゃ麻黄の分量が足りないので、神秘湯を加える。
附子は3~4gまで増量することが必要。体力的に苦しいようならコージンを加える。
耳鍼:交感、内分泌、腎上腺、対屏尖、頚、膝、足、手指
耳鍼だけで治療するなら、肝実脾虚肺虚でとっても良い。耳鍼的には、症例1も2も同じ。
肺克肝の相関から、喘息が良く(肺↓)なればR.A.(肝↑)が悪化する。
喘息が悪化(肺↑)すればR.A.が良く(肝↓)なるので、その調整が難しい。