症例 1 76歳 女性 唾液分泌異常、c型慢性肝炎
(口にガーゼを詰めて登場)
(患者)唾が止まらない。出てくるのは上からだけなんです。上の歯にぐる~と水飴みたいのがついている、一日中出ています。
(主治医)既往歴は、40歳で子宮筋腫のため子宮全摘、このとき輸血を受けています。4年前に甲状腺の手術。平成4年にc型肝炎の診断を受け、強ミノ100cc静注などの治療を受け、現在も週に2回、強ミノ60cc静注うけています。
(下田先生)肝炎の症状は何かありますか?
(患者)体のこわい症状はありません。落ち葉を拾うような仕事はいやだけど部屋の中をきれいにするような仕事はいやでない。とにかく体がかゆい。
(主治医)トランスアミラーゼ値は60~70、膠質反応、γグロブリンは軽度上昇。HCV値そのものは不明です。平成9年11月にこむらがえりあり、その頃から補中益気湯を投与、体がすこし楽になったが、咳が出るということで休薬。小青竜湯、麻黄附子細辛湯を投与したこともあるが、目立った変化なし。9月から人参湯を投与しているが、夏よりも咳やかゆみが悪化している。
(下田先生)本人は肝炎と唾液が同時にでていると言っていますね。
(患者)食べていると唾が止まるので、食べているときが最高に幸せ、味覚があるんだから。いつも、硬い煎餅やあめ玉や口の中に長く留まっているものをクチャクチャかんでいる。平成4年頃は、歩いていても1回唾を吐けば間にあったけど、今じゃ街に行くときは必ずガムや仁丹を噛んでいく。夜は口の中にガーゼを噛んで寝ます。朝になるとのどに溜まっているつばを洗面所でゲーゲーと出します。
(主治医)他には、降圧剤のシナロング、アルダクトンA、胃薬のフロマック、不眠のためにメイラックス、それと人参湯を内服しています。
(患者)平成4年から3年間、精神科に通っていました。家庭内にいろいろありましたけど、急に新聞を広げて読むのがいやになり、口きくのがいやになり、玄関のドアが開くと逃げるようになった。軽い鬱病と診断され、3年通院し良くなりました。唾の方は変わらなかった。精神科の医者に唾も鬱病のせいかと質問したけど、鬱病とは違うと言われました。耳鼻科で検査してもらったけど異常はなかった。唾の方の原因は分からないと言われました。
(下田先生)そうでしょうね、鬱病が原因なら、他の症状が改善したのなら唾液の方も良くなるはずです。唾は苦いですか?
(患者)苦くはない。くさいような、吐き気がします。
(舌診)真ん中になくて両奥に黄苔がある。脾が抑えられていて、肝と腎ですね。やっぱり肝です。(舌の裏を診ながら)オ血はないですね。
(脈診) 肝と腎です。腎から肝に流れているようだ。どの脈か最終的に分からないときは、均等に力を入れて一番最後に残る(最後まで触れる)脈が、その人の中心の脈になる。この人は最後に残るのが腎の脈です。
(腹診) 腹力あり。心下に熱がある。下腹部に冷えがある。オ血の圧痛なし。小腹急結なし。鼠径部の圧痛(血虚)なし。胸脇苦満なし。
(下田先生)肝と腎の病症ならたいてい腎が出発になる。肝が出発なら脾や肺に行きやすい。肝から腎に病症が行くときは、足腰の痛みの症状がたいがいある。少なくとも、唾液が溢れるのは明らかに腎の症状そのもの。粘っこくなってくるのは肝が絡んでくるからだろう。この患者さんをパッとみた時の処方は六君子湯だけど腹力はあるんだよね。六君子湯にしては腹力がありすぎる。頭が重いですか?何かかぶさっているよう?
(患者)はい、私の持病だけど、キーキーと痛いのではなく、いつも重い。
(経穴)太谿に強い圧痛。
(下田先生)この人の中心は腎です。奇脈は何なのか?唾液は上からでるって言ったよね?
(患者)下からは出ないんです。
(下田先生)上は耳下腺だから、胆経が絡む。下からだったら衝脈だけど衝脈ではない。緊張感のある顔は帯脈じゃない。(だん中に圧痛あり)任脈の可能性はある。
左大鍾、陽稜線、通里、右飛揚(?)、だん中に皮内鍼、耳鍼し終えて、どうですか?
(患者)前の方は少し減ったが奥の方はまだある。
(下田先生)小陰から任脈にはいるのは珍しいけど、この人は七物降下湯なんです。肩、頚、頭痛、膝の痛みはどうですか?
(患者)楽になりました。
(下田先生)七物降下湯に柴胡桂枝乾姜湯をかぶせていきます。後、サフランをわずかに加えて下さい。皮膚をみるとオ血斑があるので0.3gを2分服で加えて下さい。でも、サフランは熱を上昇させる傾向があるので、悪いようならやめて下さい。鍼のところにはレーザーをして経過みてください。
症例 2 29歳 女性 冷えと食思不振
(主治医)腰から下が非常に冷える。食欲もない、疲れやすい。背が高いが非常に痩せている。声に力がない。口が渇く、おしっこがちかい、手足がだるい。色黒だったのですが、当帰芍薬散を処方したがダメ、頻尿で八味地黄丸使ったがむかつきがでてダメ、六君子湯もダメ。子宮内膜症の治療歴があります。
(下田先生)今、一番つらいのは?
(患者)胃腸の調子が悪いことと手足が冷えることです。
(下田先生)しもやけやあかぎれは?
(患者)できません。あと、食事が食べれない。
(下田先生)好き嫌いはありませんか?
(患者)ありません
(下田先生)好き嫌いはないけどたくさん食べれないんだね。お仕事は?
(患者)アロマテラピーの仕事をしながら、エステの勉強をしています。
(下田先生)生理痛は?
(患者)ずーと、強い。内膜症の治療を受けていて、かなり生理痛はつらい。
(下田先生)お通じは?
(患者)最近は便秘はないが、苦しいときもありました。
(舌診) 泡沫がついている。
(下田先生)咳や痰は?
(患者)乾燥しているとある。白っぽいような痰です。
(下田先生)舌を診る限り、気虚、つよい脾虚を示している。
(脈診) 今日から土用に入っているので、脾の脈が強調されているので、だまされないように。
(腹診) 胃部振水音ある。しめっているけどあたたかい、汗がある。手足はちょっとしっとりしていて冷たい。これで腹部がdryだったら抑肝散です。体の芯が冷えますか?
(患者)いや、下半身だけ冷えます。
(下田先生)今、漢方は?
(主治医)飲んでいません。
(下田先生)ぱっとみると、当帰芍薬散のお腹です。胸がひっかかる感じは?
(患者)ありません。
(下田先生)(原穴の反応を確かめながら)強調されていることを割り引いても、中心は脾です。六君子湯でダメだったのは、六君子湯には陳皮、半夏が入っていて強いからだと思う。この人は手の方が冷たい、足の方はそんなに冷たくなく、汗ばんでいない。(仰臥位から)起こしておいとくとどんどん手が冷たくなる。普通の四逆では、起こしてしばらくすると手の方はそれほど冷たくなく、足の方がより冷たい。この人の処方は?
(参加者)当帰芍薬散?
(下田先生)当帰芍薬散で、あんなにお腹がグルグルいうかな?当帰芍薬散でも強すぎる。
(下田先生)茯苓飲です。茯苓飲の人参だけじゃ弱いので、茯苓飲に紅参、附子を加える。(もう一度、腹診をしてオ血の圧痛がないのを確かめて)やはりオ血はない、サフランじゃない。下半身の冷えには附子で問題ないけど、上半身も冷えるとなると、刻みでいかないとダメかもしれない。茯苓飲に五味子と乾姜を加えた処方を作り出したい気がする、作った方が良い気がするが非常に難しくなる。うーん・・・・(しばらくの間沈思黙考)、茯苓四逆湯よりは強い体質だし、もし茯苓四逆湯に近いのを作るとしたら苓姜朮甘湯に紅参、附子を加える。
仕事上かな、本人がしたいことより、いつもちょっと上のノルマを課せられていて体が空回りし、胃腸の働きが抑えられている。大量に食べては吐く事を繰り返す神経性食思不振症とは違う。実際、たくさん食べれないか食べても自分の血と肉にならない。体全体が冷えるのは、脾の機能が落ちているため。冷えが先にありその結果機能が落ちているのではない。機能が落ちて冷えている、昔から冷えていたのではないでしょう。附子理中湯も考えたが、附子理中湯は胃のチャプチャプがない。お腹の気と水が動く感じは茯苓飲です。もうちょっといくと、四逆湯の状態になる。四逆湯の証になれば治療が難しくなる。
今、どうしても頑張らなければならないのですか?
(患者)ライセンスとりたいので、東京まで通っている。
(下田先生)あなたは、時間を限って頑張るのはあまり得意じゃなく、今それをしているから体がそれを受けちゃっている。もうちょっとゆっくりしてみたら。人間一人一人、流れている時間が違うのだから。今は、昔あなたが元気だった頃に流れていた時間より急いで生きている。昔の時間を思い出したら、それだけでも違ってくるだろう。
総 括
2例目は今話した通りです。
1例目はまだよく分からない。要するに、老化現象がゆっくり進んでいたところに、なにか原因がわからないけどなんだろね、何か変わった治療をされなかったのかな。
確かに反応があったのは胆経と三焦経。胆経も三焦経もここにくるから(耳下腺付近を指して)、この付近の反応として耳下腺が腫れた。よくリウマチの時、顎関節がやられるのも胆経・三焦経がここを通るからで、この人の場合も同じように耳下腺に機能失調をきたしたと思う。
頚部痛、後頭部痛など表向きにでている症状は全部、肝・胆の症状です。一番元になっているのは、老化現象で腎虚があり、腎で支えられなくなっているとき、たぶん肝炎とのからみがあると思うけど、c型肝炎になりそこで戦わなければいけない状況で、もし腎が正常なら腎が肝を支えるのに、肝を腎が支えてこれなくて、肝・胆の症状がでてきたと考えたらいいのかもしれない。本質的には腎の虚証の症状です。胆経がからんでいるので耳下腺の症状がでたけど、唾液腺そのものは腎の支配です。
かなり年をとってからのc型肝炎の発症で体がうまく反応できなかった。肝が戦うときは腎の支えが必ず必要なのに、肝が腎に支えてもらえず、変なところにでてきたと考えていいのかな。