はじめに

今の時期は非常に面白い時期で、春の体から夏の体に切り替わる時期です。立夏(5月6日)から小満(5月21日)へ移ります。一方、脾の働きが一杯になってきます。結局、その前の土用の時期に脾が一生懸命働いて、心が働くのを助けようとするのですが、営血も脾を回っていて、小満を過ぎて、小満の次の芒種の時期にやっと心の火は燃えだすのです。

同じ作業を脾が延々とやっている。衛気で脾が一生懸命働いて、心に引き継ぎ、営血でも脾が働いて心に引き継ごうとしている。

脾の働きが弱い人は、今が一番、脾が目一杯になるときです。これがうまくいかなくなると、小満の時期に体のすべての関節や筋肉が痛いという現象が起こってくる。春の体から夏の体に切り替わりますが、夏の体に切り替わってしまうと体の表面が開いてしまう。

外気温が上がっていればよいが、気温が下がったりすると、体の表面が開いて中がまだ心の火が燃えていない。小満の次の芒種から営血が少陰心経に入る。芒種(6月6日)から少陰系に入ってくる。だから、そこから心の火が燃えはじめるから外気温が下がっても、内部の火が燃えはじめるから、たとえ温度が下がっても寒さに負けなくなる。

今の時期が、外が開きっぱなしで、脾(営血を司る中心)が一杯一杯になって、まだ心の火が燃えてないから、一年中で一番寒邪にやられやすい時期なのです。

真冬は体の表面が閉まっているから寒さにやられない。今の時期は寒さに会うと風邪をひき、具合わるくなったり、あちこち痛み出したりする。そして、この切り代わりの時期は、患者さんの病気の本体がどこにあるかが分かりやすい。

今は毎日毎日面白い。結構、ドラマチックなことが起きます。


資料(表2)の説明

外側が衛気の巡り、内側が営血の巡りです。主として人間の体を支配しているエネルギーがこれで(外側の衛気の巡りを指す)、支えているエネルギーがこれ(内側の営血の巡りを指す)です。脾の時期は、次の季節をサポートするために脾が精一杯働く、土用の時期にね。

心が支配するときは人間が一番躍動する。春は芽生えのとき、秋は収穫・実っていくとき。

冬は種のように閉じこもる時期。そして、それを支えるものとして、その時その時の営血があるが、その歪みがあるのね。それにその土地土地の気候がある。たとえば、四季のないところ行ったらはどうなるのか。たぶんこの巡りは、太陽と地球の地軸の関係に影響されているから、人間の内部の巡りは同じだから、北海道に居るときと九州の居るときでは反応は異なると思う。夏は夏らしく、秋は秋らしくあればいいのだけれど、四季のないところや南半球では、これが逆転するけど、たぶん体の中の巡りはかわらないと思う。病気がでてくるとしたらこれらの歪みに関係して出やすくなる。たとえば、もともと脾が弱い人であれば、土用の時期に脾がいっぱいに働いて、その後、まだ内部で一生懸命営血で支えないと、弱いところの症状が当然出てくる。脾がもうそれ以上働けなくなるから。たとえば、そういう時に外邪が入ってくると、当然弱いところの脾に入ってくる。逆に、何かあるとそこの実の症状が出てきたりする。


症例1 34歳 女性 (無月経と骨粗髪症)

平成元年 無月経になる。

平成5年  特に誘因がなく右坐骨骨折が起きて、病的骨折と診断。

平成6年l月19日 山下整形外科を初診。身長160c m、体重37k g、手足の冷えがあり、下痢しやすく、犬血が無く、胸脇苦満がなし。特徴的なのは、冬にひどいあかぎれになる。

最初、ツムラ当帰芍薬散7.5g、コウジン3.0gを処方。

その後、ツムラ当帰芍薬散4.0gとカネボウ温清飲4.0gと附子0.3gとコウジン3.0gに変更するも、効果はなかった。

平成6年2月7日 左腹部に帯状庖疹ができた。

平成6年4月19日 当帰四逆加呉茱萸生姜湯9.0g、コウジン3.0gを処方し、現在継続中。

しかし、症状は全く変わらず、生埋は止まったままで、あかぎれはその都度、フルコート軟膏で対応している。食生活では、かなりの量のトウガラシを常用する。

(下田先生)根本的な原因は分からないのね?

(山下先生)分からないです。

(下田先生)ホルモン関係の血液検査はしている?

(山下先生)本日行っております。

(下田先生)脈診では、脈はまっすぐです。ホアンとした(膨らんだ)脈は夏の脈です。手のかさかさは当帰四逆加呉茱萸生姜湯で本質的には間違いではないと思う。トウガラシが好きというのは体の芯が冷えているからだと思う。たぶん本能的に一生懸命とるのでしょう。食事制限はしてないですか?腎が落ちて、脾の仮性実証がある。なんらかのホルモン異常があるはず。腹診では、小腹不仁、正中芯も触れる。

(患者さん)量はたくさん食べます。吐いたりしないけど、下痢はします。

(下田先生)頭痛はしませんか?

(患者さん)はい、たまに、軽いのはあります。

(下田先生)体毛は抜けたりしませんか?

(患者さん)髪の毛は抜けました。

(下田先生)これだけ見ると、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使いたくなるけど、腎が落ちていて、肝に反応しているのであれば、当帰四逆加呉茱萸生姜湯あるいは真武湯になる。無月経に関しては、ホルモンなど色々あるのだろうけれど、からだ全体のことを考えると肝の反応がほとんどない。腎が落ちたために脾が失調している。これは治療が大変です。本人はおならが多いと言っている。ハリもあまりしないほうが良い。腎の気が落ちているときはハリはあまりしないほうがよい。逆に言えば強い症状がないでしょ、今は。

(下田先生)いつから無月経?

(患者さん)9年位前ですが、始めから不順でした。

(下田先生)基礎体温付けても排卵してない?

(患者さん)一時基礎体温を付けていたが低いまま。不規則だったのが、就職してから全然なくなった。

(下田先生)腹診から使ってみるとしたら中建中湯。小建中傷は本来は胃を高める。先ず基礎体力を高めるのがよい。大建中湯と小建中湯を半々ずつ。まず、お腹の張る感じやげっぷがなくなり、食べても下痢をしなくなり、基礎体力があがってきてそれからです。

東洋医学的に考えると先天性の腎虚の可能性が高い。先天性の腎虚のため卵巣が反応しない。肝を養うのは腎なのです。腎が十分育っていないから肝が働きだせないままで終わってしまう。肝の緊張感がほとんどない。腎が育っていないから肝も働かないで、この歳になるまで卵巣が働き始めていない。今、やれるとしたら腎はどうすることもできないから、腎が多少でも漢方に反応するのであれば、当帰四逆加呉茱萸生姜湯または当帰芍薬散に反応しているはずなんだ。先天性の腎虚の可能性が強いけれど、脾の仮性実証というのは実際には脾が虚しているのだから、この年齢では脾の力をどんどん高めてやって、後の4臓に栄養を送らせて、食べても下痢をしないように食べたものが血となり肉となるような状態を作ってあげて、反応をみる。寝汗はかく?

(患者さん)いいえ。

(下田先生)更にコウジンを加えてもよい。オ血は全くない。半年位やってみて体力が上昇するかをみる。処方は中建中湯とコウジン。中建中湯というのはないのですが、大建中湯と小建中湯を混ぜて使用したものの俗称です。

(患者さん)薬を変えるのですか?

(下田先生)今いっている当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、そんなに違っていないのだけど、基本的な体力がないから、今出ている薬に体が反応出来ない。まず、基本的は体力をあげて、食べたものをちゃんと利用できる体力になってからでないと、いろいろホルモン系に働く漢方もあるのだけど、効果が出て来ない状況にある。それだから、まず半年ぐらい体力を上げる漢方薬を飲んだみた方がよい。


症例2  54歳 女性 (更年期障害)

平成6年11月 初診。主訴はめまい、頭痛、不眠、動悸、格怠感、肩こり、上半身のほてり。既往歴は、小児マヒ、29才で子宮上部切除術、アレルギー性鼻炎があります。

以前に他院で人参養栄湯を処方されていたということもあり、最初は補中益気湯を処方しました。最初は調子良いと言いますが、何カ月かすると満足できなくなってきて、

平成7年4月 加味遺遥散に変更。

平成7年8月 肩こりが激しく桂枝茯苓丸に変更し、正官庄コウジンを追加。

平成8年2月 頭痛が激しいということで呉茉萸湯に、

平成8年7月 温経湯に

平成9年1月 胃の調子が悪いということで六君子湯に変更した。

平成9年3月 六君子湯+加味逍遥散で割と落ちついてはいますが、最近の訴えは頭痛と動悸です。

(下田先生)頭痛と動悸はいつぐらいから?

(患者さん)前回、診ていただいたときがひどかった。5月6日、8日に脳神経外科に診てもらったが何ともなかった。昨日、今日は調子がよい。ひどい時は1日3回、薬を飲んでいたが、今は1日1回でも治まります。

(下田先生)今はどんな症状がありますか?

(患者さん)今はとにかく疲れやすい、何もしてないのに急に動悸がして、ふわ一と立ちくらみがしたりする。

(下田先生)立ちくらみが一番強かったのは最近ではいつ頃ですか?

(患者さん)連休明けです。

(下田先生)脈診は両方同時に行ってください。6本の指に伝わってくる脈気を感じて下さい。この方は肝ですが、肝のわりに肺がない。

問診を聞くかぎりにおいては加味逍遥散と六君子湯はそんなに離れていない。これでも良いのかなと思ったのだけど、その割に苔がない。加味逍遥散と六君子湯は非常に良い処方です。加味逍遥散にさらに人参群が加わって脾や胃腸を補うかたちになる。要する、脈診を診ると、肝と肺や脾が争っている状態になってる。そしてやっぱり、生きてる中心は肝です。

(下田先生)のどの詰まる感じはないですか?

(患者さん)この辺の(上腹部)のつまる感じはある。

(下田先生)(舌診で)イチゴっぽい舌というのは、加味逍遥散で本質的にはいいのかもしれない。サワサワした寒気はしませんか?

(患者さん)風邪もひいていないのに、寒気がすることがあります。

(下田先生)(腹診で)下腹部の張る感じは加味逍遥散でしょう。肝にしては腹力がなさ過ぎるね。頭痛がするのは、胃腸が虚しているために今の時期、衝脈に特に入るため、衝脈の症状なのね。肩こりはありますか?

(患者さん)あります。左の肩が特にこります。

(下田先生)帽子をかぶっているように後頭部から重くなりますか?

(患者さん)その時と首筋の時とあります。

(下田先生)今はどちらがありますか?

(患者さん)今日はおさまっています。肩こりは左がひどい。

(下田先生)ちょっと強いんだけど、加味逍遥散は基本的に違ってないと思います。少し気を発散させるだけで良いんですね。小腹急結なし、オ血はあります。(オ血圧痛点が血海の圧迫後に軽減することを確かめて)

鍼:左足が小児マヒの方ですね。自律神経失調症という病気はないのです。それは診断がつかないときに言うのです。病気が長くなれば、自律神経失調症の症状は必ず出てくるのです。(太衝、太谿、太白を較べて)足のツボの反応は腎の方が強く出ている。これは小児マヒの影響です。基本は加味逍遥散です。衝脈に入っているから、たぶん、衝脈を処理すればいいんだけど、これだけ痛がるからね(三陰交を圧しながら)、直感的には加味逍遥散十香蘇散。症状の中心は舌、脈とも肝にある。一番手っ取り早く試してみるなら、加味逍遥散十六君子湯に香附子3gと普通の附子0.5g加えてみる。普通は病気がlつのことが多いが、非常に珍しいけど、この方は2つの病気がある。小児マヒと更年期障害。更年期障害のみであれば加味逍遥散十六君子湯でうまくいっていたはず。小児マヒが小陰の方に引っ張っていくので、それだけではうまくいかなくなったと思う。そのため、香附子で肝のめぐりを良くして、附子で腎をもうちょっと立ち上げてやると変わってくると思います。

試しにハリをしてみます。左の気舎(衝脈)で衝脈を抑える。左の大鐘(腎経の絡穴)、左の通里(心経)、左の太谿、右の飛揚(膀胱経)、右の曲泉、左の陽陵線、右の支正、右の三陰交。右の天りょう、左の翳風は肝経が緊張しているときに使います。以上の小陰系は絡穴ですが、曲泉と陽陵泉は補母穴、瀉子穴です。

(下田先生)肩を回してみて下さい肩の重さはどうですか?

(患者さん)ハリが痛いところがある

(下田先生)見えているつぼを直接刺すと、反応が強すぎることがあるので、少しずらした方が良い。肩は軽くなりました?

(患者さん)はい。

(下田先生)たぶん、この方は加味逍遥散の基本でよい。わずかにオ血があります。サフラン0.3g/2xを追加しても意外と良いかもしれない。あ、目が開いたね。さっきより目がパっとね、大丈夫だね、これで合ってるみたいだね。レーザーがあればこの位置に定期的にかけると効果がでます。香附子は人によっては飲みずらいことがあります。その場合は変則的だけど、加味逍遥散と六君子湯を3分の2以上にして3分の2以上の香蘇散を加えるという方法もあります。季節、季節で変えてやる必要がある。ふわ一と上がってくるめまい、動悸はこれでよくなります。2週間はハリを付けたままでよいです。この2週間はこれで乗り切れます。

土用の前は、この方は形としては2つの病気がありますが、やはり肝腎両虚に状態になります。肝腎両虚になると、やはり脾の仮性実証がでてくる。土用の時期に、特に十分胃腸を大事にしておくと、衝脈に入りにくくなります。先月(4月)の末くらいから体が非常に不安定になりませんでしたか?。

(患者さん)ええ。

(下田先生)この状態でずーといくと、脾の働きが精一杯になる時期にもっと具合悪くなっていたはずなんです。四季の土用の時期に甘いものを極端に控えると具合が悪くなります。甘いものを極端に控えると、かえって元気が出なくなります。

1月の末、4月の末の頃、7月の末の頃、10月の末の頃に、少し甘いものを多めに取って、季節の食べ物をきちんと取って下さい。季節外れのものを食べない。それをやるだけで体の調子が良くなってきます。


症例3  50歳 女性 (更年期障害、うつ病)

平成9年10月初診。主訴は手足のしびれ感と動悸。他院にて女性ホルモン補充療法を行ったが症状改善せず紹介されました。

既往歴は3歳で肺門リンパ腺、平成9年9月 腹部に帯状庖疹を発症しました。

初診時の現症は前腕等のじんましん、下肢の萎縮性皮膚炎(欝滞性皮膚炎)がありました。最初は下肢の冷えをとる目的で当帰四逆加呉茱萸生姜湯とアゼプチンと、動悸をとるのにサンドノーム(βlブロッカー)を処方しました。ところが当帰四逆加呉茱萸生姜湯にて鼻の周りにニキビが増えたため、加味逍遥散とコウジンに変更しています。

平成9年12月末 仕事を止めています。

平成10年3月 3.5kgの体重減少、じんましん、全身倦怠感、胃のもたれ、めまい、痔の痛みという訴え

平成10年4月 胃痛、腕がこわばる、不眠、口の中がねばねばする、腹痛、全身のこわばり、尿が黄緑色という訴えがありました。最近、力が出ない、痩せてくる。

(下田先生)両足ともしびれますか?

(患者さん)最初は両足で、痛みもあった。

(下田先生)今はたいしたことない?

(患者さん)たいしたことないです

(下田先生)動悸は今でもしょっちゅうありますか?

(患者さん)一時なかったんですが、最近になってまた強くなった

(下田先生)夜は良く眠れますか?

(患者さん)良く眠れません。

(下田先生)寝付きが悪い、それとも朝早く目が覚める?

(患者さん)デパスを飲んで寝ているのですけど、前はよく眠れたが、今はlから3時間でよく目があきます。尿が出そうだけれどそれほど出ない、婦人科の方も何か痛みがある。尿をした後にいやらしい痛みがあります。今一番はそこです。それと、神経科に行ってきて、薬をもらってきた。うつ病と言われた。

(下田先生)ものを全然考えられない?

(患者さん)いや、そんなことはありません。

(下田先生)すごく焦って色々なことを考える?。あれこれ考えて寝られない?

苦しくてものが食べれないことがある。

(患者さん)そういうことはありません。

(下田先生)食べれますか?

(下田先生)帯状庖疹の後の痛みはありますか?

(患者さん)ないです。帯状庖疹の時に両方の足が痛みだして、微熱が出た。皮膚科の先生は帯状疱疹からは熱が出ないと言われまして、

(下田先生)どれくらいの熱ですか?

(患者さん)37度2、3分です。「熱のことは気にするな」と内科の先生に言われた。でも、ずーと微熱が続き、疲れて、食欲もなく、漢方とか薬を飲まなければならないので、ご飯だけは無理して食べていました。間食も全然したくなくなった。体重59kgから、今は53または54kgに減って、服がゆるゆるになった。今はしかたがなく食べている。また体を動かすのが億劫になった。よく眠れなく、目が開いたら憂鬱なことを考える。ずーと奈落の底に落ちてくような感じがあったり、フワフワフワフワとフラッシュが焚かれてくように感じになったり、もう駄目になってしまうという不安がある。こちらの先生にも神経科に行ったほうがよいと言われた。紹介した前医も神経科に行ったほうがよいと言うので、月曜日に神経科へ行きました。そうすると寝ることも出来まして、体のこわばり、緊張感も楽になりました。動悸の方も体の硬直感も楽になった。ただ薬のせいか、すごく眠たいです。

(下田先生)脈はすごく分かりやすい。婦人科的には異常はないでしょう?

(石川先生)婦人科的には所見はないです。

(下田先生)婦人科の症状とかおしっこの症状はとれないでしょう?。一番気になるのはそれだもんね。

(患者さん)症状は気になる時もあるし、気にならない時もある。尿の出かたが勢いがなく、したいと思って行っても、一拍か二拍おく感じです。

(石川先生)4月27日に清心蓮子飲を渡しています。

(下田先生)肺と脾と肝が争っているのが分かりましたか?。ただ、一番中心なのは肺の位置にあります。肺が虚していて、肝陽が上がって、脾が結果的に抑えられている。肺から出発する悪循環です。デプレッションはデプレッションで間違いない。問題はそれを橋渡ししているのは全部任脈なんです。本人の言ってることは全部。症状は動悸がしても、わあーと上がってくることはないでしょ。ここで止まるでしょう(胸骨の位置を指して)。ここで止まって、ずーっと胸の中がさみしくなっていく感じですね?

(患者さん)はい。

(下田先生)もうひとつ、帯状庖疹になったのは帯脈が考えられるけど、帯脈だと何かが下がるのです。この方は、おしっこをしたくなるけど下がらない。本人が違和感を訴えているところはいわゆる胞中というところです。胞中から始まる脈は奇脈しかない。要するに衝任督帯、督脈じゃ当然ない。衝脈にしたら上がる症状がない。帯脈にしたら下がる症状がでるはずなのに。結局、ここから出発してここに止まるし、訴えてることが体の前面のところにある、たぶん任脈の症状です。

舌は圧痕があります。気がめぐらないためのすこし水滞があるが、水が溢れるまでいっていない。

のどには引っ掛かる症状はないですか?

(患者さん)のどが詰まっている感じはあります。

(下田先生)上がって来る感じはない?

(患者さん)ないです

(下田先生)腹診で、恥骨上縁に冷たい感じがある。胞中の気がある。胞中が冷えている。

以前、妊娠5週で妊娠反応も出ないときに、ここに赤ちゃんの気を感じたことがあります。ただし、既に向精神薬が処方されているので、薬の選択が難しい。任脈の症状は、鍼ですごく良くなるけど。便秘はしない?

(患者さん)もともと便秘症だったのですが、胃の検査をして薬をもらってからは、毎朝でるようになった。神経科の薬を飲んでから、また出が悪くなって、今日、タケダ漢方便秘l薬を飲みました。「神経科の薬で口が渇きます」と言われた。

(下田先生)鍼をしながら考えましょう。太陰の薬の中から選ばなければならないのだけど。一番、腹診の感じからピンと来るのは茯苓飲合半夏厚朴湯です。それで婦人科の症状までうまくとれるかどうかは分からない。温経湯は使ってみましたか?

(石川先生)前医で使用していましたが効果はなかったです。

(下田先生)やはり、基本は茯苓飲合半夏厚朴湯でしょうね。(鍼しながら)肝も争っているが、強い症状は出していない。だん中、右の公孫、右の列缺、右の陽陵線、左の偏歴、左の豊隆、左の曲泉に置鍼す。つぼが抗うつ剤のために鈍くなっている。ハリで症状が取れてきたら薬を減らして行きましょう。任脈のデプレッションは抗うつ薬では完治しない。むしろ、からだ全体を調節してやった方がよい。胸の感じはどうですか?.ハリが効くと頭の重いのが軽くなったり、目の前が明るくなったりしますが?

(患者さん)あまり感じがしません。

(下田先生)抗うつ剤を飲んでいるのであまり感じないとおもいます。婦人科の症状が取れるか、食欲が出るかが大きなポイントになると思います。神経科の薬を飲んでいても婦人科の方は良くならないとおもいます。また口が渇くため、ものがおいしくないと思います。今は抗うつ剤のため、強い症状がないので何とも言いようがないです。


総  括

順番に説明します。最初の症例は患者さんの前では言わなかったのですが、先天性の腎虚です。腎が働かないから肝も育たない。第2次性徴がでる段階で、腎が働かないから、ほとんど原発性無月経になっている。卵巣が働いているなら、かならず肝が働いているはずだが、肝がほとんど働いていない。先天性の腎虚の場合、下垂体が働いて来ない。anorexianefvosa(神経性食思不振症)の場合に、デプレッションで説明できるものもあるけれど、この症例は本当に先天性のものです。

最終的に肝を育てるのは腎である。腎が育たないと肝も育たない。脾を育てると、肺や肝はある程度育つのですが。肝を育てるものは腎陰で、しかも腎を育てるものはないんです。だから難しい。一応、脾を養ってみて効果があるか。いまの状態なら、社会生活が出来ないので、少なくとも、社会生活が出来るようにさせたい。本人は下痢していると言ってたけど、過食して吐いて下痢していると思う。少なくともそこは止めることはできるが、無月経はどうにもならない。あの年齢までまで育たなかったものを、育てるのは難しい。思春期の頃なら、足りない腎気を肝に集中させる治療はあったのだけど、あの年齢まできてしまったらどうにもならない。

2例目は加味逍遥散が基本で間違っていない。あれでうまく行く思う。加味逍遥散の常用量が多い場合もでてくる。

3例目はデプレッションですが、、任脈の症状があるときには、強い抗うつ剤を飲まないで漢方治療するとよいのですが。消去法で考えていくと任脈しかない。帯脈なら尿は結構出ます。任脈でほとんどよいと思います。婦人科に対する症状、胞中そのものに対する症状は抗うつ剤ではとれない。茯苓飲合半夏厚朴湯でやってみて、任脈を動かすとすると、その後で炮附子(小太郎)を使ってみるか。オ血はないけれどサフランを使ってみるか。コウジンは胞中にほとんど作用しない。胞中は特別なところで直接作用する薬がない.任脈を動かすのはハリが一番効く。漢方生薬であまり効くものはない。陰液の枯渇があれば四物湯だが、枯渇がない。レーザーかスーパーライザーはハリの効果を上げます。

(山下先生)3例目の方は防已黄耆湯でどうですか。

(下田先生)(以下、下田先生が述べた両薬の違いをまとめました。)

防已黄耆湯 茯苓飲合半夏厚朴湯
舌診 白い、圧痕あり、水が溢れている 左記と同じ事もあるが、赤黒く熱っぽい事もある
腹診 緊張ない、動くものなし、ポッテリしている 緊張あり張っている、水と気が動く
湿潤 乾燥
冷え 強い 弱い
うつ症状 強くない 強い

茯苓飲合半夏厚朴湯は、気虚が水滞をおこしている。若い頃は、もしかしたら防已黄耆湯だったかもしれない。

最後に、ステロイド、抗精神薬、NSAIDなどの抑制剤で抑えられていると、分かりにくいので、症例検討に出す場合は、少なくとも前の日からこれらの薬を中止して下さい。

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