表1の見方ですが、白抜きが相生、黒矢印が相剋です。あと、五臓六腑のめぐりを示しています。結局、患者さんのどこが犯されているかです。
外側の薬はどこに主として効くかで書いてあります。太陰のところにある薬は完全に太陰だけの薬で、厥陰では厥陰だけに効く薬です。内側が補薬、外側が瀉薬になっています。どちらかに寄っているのは、例えば太陰のところでは左が肺を治療する薬で、右が脾を治療する薬が多いということです。
気血水とあるのは、どちらかといえば、気血水のどちらにかかわりやすいかの意味です。
表2にあるのは、季節でその人の出しやすい症状がどんどん悪くなる。
今時(1月12日)は、小寒を過ぎて大寒に入る直前です。分かりやすく言うと小寒の時期は腎が支配しているが、次に脾と書いてあります。正確には土用から脾に入るのですが、土用の時期というのは次の季節に対応するために消化器が一生懸命働き出す時期といえます。その時が不安定な時期になります。今の時期は足の厥陰肝経に営血が回っていて、春に備えている。肝は本来春を支配しているのですが、外側が春の気になる前に血が先に春の準備で動き始めている。
暦を見ていると、意外と患者さんはぴったりあった症状を出してます。
表3の五臓六腑はそれぞれの関係、衛気、営血、心包、三焦はおいおい分かってくると思います。
症例検討
症例1 58歳 女性 慢性関節リウマチ
(主治医)2年前(平成8年4月)から、両手関節痛と腫張が出現。同年11月初診。この2年間、両手関節痛、両膝関節痛と水腫、頚腕痛を認め、CRPは1.14mg/dl~4.44mg/dl、RA(-)~(+)です。冷え症で便秘があります。薬物治療は、プレドニン5mg、防已黄耆湯、大黄牡丹皮湯です。
(下田先生)今、一番つらいのは何ですか?
(患者)両手関節の痛みです。
(下田先生)舌には緑がかっている苔があります。緑色苔があれば本質的には柴胡を使います。ただ、問題なのは、ステロイドを使い続けていると漢方治療はうまくいかない。
脈証は肝と脾が争っている脈です。リウマチの患者さんは肝実脾虚になることが多いですが、この人は脾がかなり闘っている。だから、肝と脾の脈が対等にでてきている。
次にどうやって肝と脾が争っているか考えていきます。
腹診をします。胸脇苦満のとりかたはいろいろありますが、一番、患者の自覚で解るのはこの方法です(季肋部に左手掌を当て右拳で叩く)。うんと強く叩いて感じるのは微苦満、軽く叩いたり、掌でデファンスとして感じるのは強い胸脇苦満です。
心下部と臍の中間に抵抗があります。普通は、この部位は手がスポーンと入り込むのに、これは多分ステロイドを使っていたために、脾があがってしまっているからと思います。左の天枢が感じています(抵抗があります)。これは、肝と脾が争っているときにおきます。肺は係わっていないので、右の天枢はほとんど反応しません。
また、小腹急結はありませんが、右の臍傍に圧痛があります。舌の裏の静脈怒脹もそんなに強くありません。この患者さんは当然オ血があり、大黄牡丹皮湯は間違っていません。桃核承気湯証はありません。
防已黄耆湯を使っていますが、防已黄耆湯の人は舌に圧痕ができるぐらい水が溢れていますが、この人はありません。もう一つ、防已黄耆湯の人は色が白くしっとりしています。手の甲で腹に触れるとよく解ります。手足は冷えますか?
(患者さん)手足は火照ります。
(下田先生)今、どうゆう症状がありますか?
(患者さん)両手関節が重苦しい、肩首が張ります。
(下田先生)左右どちらが強いですか?
(患者さん)右です。
(下田先生)人間、右が強いのは気の異常です。この人は肝と脾が争っている。プラス、オ血がある。主たる病証がどこにあるかを診るのは原穴で診ます。ほとんどの方の場合、足の原穴でみるのが診やすい。(太衛を圧して)響いてきますね。(太白を圧して)これは大丈夫ですね。さらに、きょう脈の反応なく、維脈の方が痛がっている。
RAの典型的パターンは肝と脾が争っているのだけど、きょう脈を通る。この人はステロイドのせいと思うが維脈を通っている。RAはほっとくと、きょう脈に入り症状はstraightに出る、維脈に入るとmildだが頑固になる。
もし、鍼をしてその場で症状が取れればステロイドは切れる。
治療点は基本的には絡穴と奇脈の反応点にとる。
真冬と真夏の時期は維脈と帯脈は三経にかかわる。
この人は本来は、肝と脾が争っているけど、今の時期の冬は全体の気を腎が支配しているので、腎がちょっとからみます。
基本的なツボの取り方は、主としてとる経脈の絡穴をとり、繋いでいる維脈の反応穴をとり、流れていく経脈の補法か瀉法をする。
この皮内針を奇脈の方につけます。ようするに、奇脈っていうのは、そこに気がよどんでいるからそれを押し出してやる。ここは、腎に関係するツボです。(次に厥陰肝経の蠡溝に皮内針を刺しながら)今は、真冬だから補の方向に(流れの方向に)とるが、その他の季節では、先に補してから、その後、瀉す。春と秋は、一時的に陽脈は瀉し、陰脈は補す。真夏は陰陽とも瀉す。
(左内関と曲地、右外関と曲地に皮内針刺し終えて)楽になりましたか?
(患者)首は楽になった。左手首がまだ痛みます。
(下田先生)そうすると、この人は治る力を持っている。鍼が全体的に合っていれば、頭の痛いのが取れて、目の前が明るくなる。
痛がるところには、鍼はしない、決まった方法で取穴して、あとは対症療法的に耳のツボを取る。本人の中の気の流れが治癒力を持っていないと鍼は効かない。(患者の左耳介に耳鍼する)
さて、処方ですが、この人の細絡の出かたは疎経活血湯ですが、腹証がぜんぜん違う。葛根湯加朮附湯を使う状態であるのは間違いない。膀胱の症状はありますか?
(患者)あります。薬を使わないと出が悪い。
(下田先生)柴胡剤はリウマチに使うとき、両刃の剣になる危険性がある。リウマチとの本格的な戦いを誘発することがある。こんな時は、竜胆瀉肝湯を使うと良い。葛根湯加朮附湯、竜胆瀉肝湯、サフラン、附子でいき、大黄牡丹皮湯はそのままでいいです。2週間後に、ハリを抜いた後、ハリをした対称の位置にレーザーポイントを移してかけてください。患者さん自身が分かります。自分で探っていけば一番痛い位置です。
症例2 11歳 男児 小児喘息
(親)喘息なんですが、去年の秋から発作は起こしてないです。
(下田先生)発作はいつ起こしますか?
(親)雪が降る前と雪が降っている2月。2月ぐらいに始まるんです。
(下田先生)2月の半ば、18日前後ぐらいですか?
(親)そうです。最後に起きたのが11月の初めです。
(下田先生)11月の初め、正確に分かりますか?
(親)11月の6日か8日か。
(下田先生)11月6日か8日というと立冬にはいったところです。春と冬の初めの時期とで症状はちょっと違うでしょ。冬の初めの時期は、すごく痰が溢れるようなかんじになりませんか、そして、春はむしろぜいぜいの方がつよいでしょ。からぜき、ぜいぜい、ひゅーひゅーの方がつよいでしょ。合いますね。ほとんどね。
冬の始まりというのは、秋の間ずっと肺が働いてきて、次に腎が動き出さないといけない時期に、まだ子供だから腎が動こうとするとまだ十分腎の力がないために、肺の気を受けれなくなる。そのために、肺の水が溢れてきて、秋口は水が溢れる。
逆に、春先は肝気が開いて動き出す、春のはじまりというのは人間の体が開き始めるときです。開き始めるときに、体の中では、2月18日前後の立春から雨水の間に体が切り替わる。
体の表面を肝気がめぐって開き出す時に、体を防衛するために、内部では、営血は肺をまわりだす。ところが、肺の働きが弱いと、営血をまわさないから、外側だけが開いたために、残っている寒さや室内のダストにやられやすい。そのため、春先は発作性の(痙攣性)の反応になる。
秋口は内から溢れてくる反応になる。同じ喘息でも違うパターンになる。
脈証ですが、患者の左(検者の右中指)、患者の右(検者の左示指)に強く脈を感じる。肺と肝が強く出ています。
腹証ですが右の天枢に抵抗がある。叩くとこちらの方だけ抵抗が跳ね返ってくるのが分かりますか。右の胸脇苦満がある。たまに左の胸脇苦満があって、たとえば胆嚢炎があっても左にあることがある。押して痛がるのはよっぽど症状が強くないとない。
今現在、発作を起こしていないのなら、秋口の予防には神秘湯が良いのだけど、春の発作の予防には柴朴湯、発作が近づく予感がしたら、小青竜湯合麻杏甘石湯(5:5)にする。今は一日3回柴朴湯を飲ましておいて、夜だけちょっとぜいぜいし出したら小青竜湯合半夏厚朴湯、昼もぜいぜいしだしたら昼間の処方を神秘湯に切り替えていくのがよい。
2年ぐらいで漢方薬も要らなくなるでしょう。子供の場合は内臓が育って悪い物を処理できるようになれば発作が起こらなくなる。
症例3 7歳 女児 アトピー性皮膚炎
(親)今は、軟膏でステロイドを使っています。体はボアラ(strong)+サトウザルベ、顔はアルメタ(medium)+サトウザルベです。すごい暑がりです。最近はひどい状態で、実は昨日もステロイド軟膏を使っています。
(下田先生)ステロイドを使っていると厳しんだよね。本当にひどいアトピーはステロイド使ってもよく治らない。逆に軽いアトピーはステロイドを使ってもよくなる(笑)。ひどいアトピーは途中からステロイド使えば使うほどどんどん悪くなる。
この子のように、アトピーの好発部位にだけ発疹がある例は、余計なことを一切しなければ体が成長するにつれ自分で治る。
アトピーは皮膚が弱くてなるのではなく、内臓が弱くて処理できないものを皮膚が代わって出している。それをステロイドで塗り込めると、軽い症例ならしかたなしに内臓に戻って時間がかかっても処理するけど、だけど、ひどい人は内臓で処理できず、中にどんどん溜まってくる。そうするとアトピーの好発部位だけでなく全身真っ赤になる。最終的には溜まった熱い物は顔に集まってくる。成人アトピーのひどい人は全身真っ赤、顔も真っ赤なステロイド紅皮症になってやってくる。
アトピーも喘息もやられているところは同じですが、ただ奇脈が違うのです。
アトピーは維脈かきょう脈を通るが、喘息は衝脈を通る。
それで、もしハリをするとすれば、きょう脈を通して厥陰肝経を通す。
だけど7歳ぐらいはハリに恐怖感を持ち、かえってストレスになってハリが効かなくなる。小学校高学年になればハリを我慢してくれるけど。
一般に皮疹の場合、表面がarea状なら基本方は消風散、island 状なら基本方は十味敗毒湯、悪瘡傾向があれば柴胡清肝湯、治頭瘡一方、皮疹が分厚くなって気がめぐらなくなったら当帰飲子です。
さっき言ったようにアトピーは脾や肺の発育が悪いため皮膚が処理している訳だから、皮膚の発散を助けるためには蘇葉がいい。この子の場合、香蘇散と消風散を用い非ステロイド性軟膏やワセリンを用いていけば、成長すれば治ります。脾の働きを助けるために参耆剤を用いることも考える。
総合質問
(恩田先生)表2がぜんぜんわからないのですが。
(下田先生)表2は難経の中にある二十四節気の図ですが、難経のは内側だけです。外側に僕が手書きで加えています。難経の図だけでは何をいっているのか分からなかったが、結局、これは二十四節気に応じて、営血がどこをまわっているか(内側でどこが動いているか)が書かれている。
衛気の方は春は肝が支配し、夏は心が支配し、秋は肺が支配し、冬は腎が支配する、そして各季節の土用の時期に、その次に来る季節に備えて脾が栄養を蓄える。
要するに、衛気がどこをめぐっているかと営血がどこをめぐっているか、そこの歪みがでてくるかをみる。
各季節ごとに、例えば肺が低下したらどうなる、腎の力が精いっぱいの人はどうなる、平均気温より暑かったらどうなる、逆に寒かったらどうなる。
例えば、脾之大絡という小満の時期は、体の外側は心の時期に入っているのに体内部の火がまだ燃えていない。要するに、次の芒種の時期になると内部の火も燃え出す。外でも内でも火が燃え出すと夏の盛りの体になるのだけど、外側だけ夏の盛りになって内側の火が燃えていない時には、その時期に寒波が襲ってくると、人間は寒さにやられる。だから、この小満の時期は6月の初めだけど、この頃に寒いときがあると冬よりも寒さで人がやられるのはそのためです。
外側を書き加えたために、季節と人間の関係が非常に分かりやすくなった。
今の時期は、ちょうど春の肝気が動く前に、春に備えて営血の肝気がちょうど動き出す。それで、肝の病性を持っている人は、ちょっと不安定になりやすい。
真冬は全部殻に閉じこもっている時期だから意外と楽なのです。ところが、小寒の時期から不安定になり、土用になるともっと不安定になる。
立春から雨水の間にコロっと春の体に切り替わる(第2症例の子のように)2月18日頃に、アレルギー的な全身発作が一番起こりやすい。
逆に、立冬の頃には、それまでずっと肺が働いてきて、まだ肺の勢いが強いとき、腎の気に移り変わらないといけないのだけど腎の気がまだ立ち上がってくれないと、肺の残りが受けれなくなって、そのために肺の水が溢れてくる。秋と春の喘息は違うのです。
参 考
1 土用
暦法で、立夏の前18日を春の土用、立秋の前18日を夏の土用、立冬の前18日を秋の土用、立春の前18日を冬の土用といい、その初めの日を土用の入りという。(広辞苑)
2 二十四節気
太陽年を太陽の黄経に従って24等分して、季節を示すのに用いる語。中国伝来の語で、その等分点を立春、雨水などと名づける。